2008年4月20日日曜日

山根先生の診断②-2007年1月7日

犬の僧帽弁閉鎖不全症は、一般的にとても多い病気です。しかし、ほとんどの書物や獣医さんは、一度発病すると治療法はないので、どう進行を遅らせるか、楽に過ごさせてあげるのか、ということをテーマに治療をすると言われています。山根先生は、そんな獣医会の常識に自ら挑戦をし、人間界同様に僧帽弁を外科で治すことを先生自身のライフワークにされています。

先生にお会いし実際にお話をすると、どんな書物を読むことよりも先生が研究されてきた犬の僧帽弁閉鎖不全症の手術の可能性についての識見が一気に高まります。また、薬の投与で僧帽弁の負担を軽くするという内科的治療に対する考え方も、今までとは違った視点で見るようになります。

「犬の僧帽弁は完治は無理だと思っていたけど、それはもしかしたら違うんじゃないの?だとしたら、このまま薬を与えるだけでいいの?手術をするべきじゃないの?でもリスクは高いし、もし、こいぬが手術中に死んでしまうようなことがあったら、そんなかわいそうなことは絶対に耐えられない・・・」

私は”何がこいぬにとって一番いいのか?”を考える前に、”もし、手術中に何かがあり、こいぬが死んでしまったらどうしよう?”ということをどうしても考えてしまい、冷静に手術の決断ができない状況に陥っていました。

山根先生と話をしながらも、頭の中はぐるぐるとそのことばかりを考えていました。いくら、先生に向かって「リスクはどれくらいですか?何パーセントぐらいの確立成功するのですか?」と問い詰めても、先生すらそれは知る由もないのです。そうはわかっていても、果たして僧帽弁の手術はどれくらい成功するのか?万が一の場合はどうなってしまうの?そればかりを考えて、失礼とは思いつつも先生に問うていました。

当たり前ですが、僧帽弁の手術リスクは確実にあります。何が一番なのかはわかりませんが、私が聞いた限りでは、術中に心臓を止めて代わりにつける心肺措置の適合や、手術が成功したとしても意識を取り戻さないケースもあると聞きました。また術後、僧帽弁が完治した時に、周囲の内臓に対する影響もありえるということでした。要は、やってみなければ、どれだけ延命できるのか、完治できるかはわからないのです。一方、もちろん成功しているケースもたくさんあります。実際に、私は見ていませんが主人は山根先生が何かのテレビに出ていてそのケースは僧帽弁が完治していたと言っていましたし、私たちが先生にお会いした前の週は、台湾からきた1歳の犬が、同じく僧帽弁の手術をし、その後元気に回復しているということでした。

要するに、この決断は、私たち自身が「こいぬにどうしてあげたいのか?」「こいぬとこれからどんな生活を送りたいのか?」ということを、本気で考え抜き、そこにはリスクがあったとしても、それも含めて、手術を決心するかどうかだけの問題でした。

山根先生は「ゆっくり考えたらどうですか?」とおっしゃりましたが、手術をするならばそこまで進行していないうちにする方が全然リスクが低いということで、私達は一刻も早く決断をすべき時期でもありました。山根先生とのその日のお話では、もし、手術を最短でしたいならば「2月14日(水)ならば空いています」と言われました。そして、その日を過ぎたら、その後は3月以降になるということでした。

東京農工大学動物医療センターは、毎週水曜日が手術日になります。犬の僧帽弁閉鎖不全症の手術は、山根先生曰く、心臓疾患の中では軽い方らしいのですが、それでもかなりの大きな手術になるので、何週間に一度しかできないことや、山根先生自身がすべて手術されるので当然、当日は一匹しか手術ができません。

初めてお会いした日が1月7日。そして、すぐに手術を決断するならば、最短で2月14日。ちょうど、こいぬの僧帽弁閉鎖不全症が発覚してから約1年。限られた時間の中で、とにかく後悔のない決断をしなくてはいけないことのプレッシャーが私には重く圧し掛かっていました。

今、ここで手術の選択肢から逃げ出すことは、ある意味では非常に容易なことでした。なぜならば、こいぬがそこまで、普段、心臓病で辛そうにしていないために、こいぬを見ているとこのまま何も起こらず、元気なままでいられるんじゃないか?と思えるからです。しかし、冷静に考えるとその可能性はほとんどありえないのです。こいぬの僧帽弁の進行は少しではありますが既にこの数ヶ月でも進んでいましたし、山根先生のアシスタントの葉山先生によると、僧帽弁はある時期から急に進行は早まるので、そうなると非常に早い速度で明らかに悪くなるし、肺水腫を起こしたり咳が止まらなくなることが頻繁に起こり出す、と言われていました。こいぬがいつ、そのような状態になるのか、そう考えると、手術のリスクとは別の意味で、胸の奥が詰まり声も出なくなる思いでした。

先生にお会いした日、私は山根先生に出会えた喜びとは、別のところで、先生に出会ってしまった自分達の運命を恨んでいました。「なぜ、ここまで辛い決断をしなくてはいけないの?こいぬが何か悪いことをしたの?」心臓病である事実を忘れ、私はこの決断自体のプレッシャーで心が張り裂けそうな思いでした。


■少し古いですが、山根先生の文献です。
http://72.14.235.104/search?q=cache:ZsQHr6_e1gcJ:www.tuat.ac.jp/~kathy/Ima_NOKO/yamane.doc+%E5%83%A7%E5%B8%BD%E5%BC%81%E3%80%80%E7%8A%AC%E3%80%80%E6%89%8B%E8%A1%93%E3%80%80%E5%B1%B1%E6%A0%B9&hl=ja&ct=clnk&cd=1&gl=jp

0 件のコメント: